膵臓がんとは?
病態・原因・検査・治療について解説
膵臓がんは早期に発見しにくいがんとして知られています。
それでは膵臓がんはどのような病気なのでしょうか?
本記事では、膵臓がんの定義、病態・原因、症状、検査、病期、治療、生存率について解説します。
これを読めば、膵臓がんの概略が分かります。
膵臓がんの検査を受ける際に役立ててみてください。
膵臓がんとは
膵臓がんとは、膵臓にできるがんで、多くは膵管に発生します。
ほとんどは腺がんという組織型です。
なお膵臓は、胃の後ろにあり、長さ20㎝ほどの細長い臓器です。
食物の消化を助ける膵液、血糖値をコントロールするインスリンなどを分泌します。
膵液は膵管を通って十二指腸に注入されます。(注1
膵臓がんの病態・原因
膵臓がんでみられる構造や機能の変化(病態)と、それを引き起こす原因について解説します。
病態
がんとはがん細胞の塊です。
そしてがん細胞は、遺伝子の異常で死ななくなった細胞です。
人の体は毎日細胞が死滅し、細胞分裂で補っています。
細胞分裂の設計図は遺伝子であり、毎日遺伝子が数千億回コピーされます。
回数が多いためどうしてもコピーミスが起こり、細胞が突然変異してがん細胞ができます。
実をいうと、正常な人でも毎日がん細胞ができているのです。
しかし免疫細胞ががん細胞を退治しているため、そうそうがんはできません。
ところがときにがん細胞が生き残り、10~20年かけてがんになる場合があります。(注2
原因
がんは老化の一種です。
長生きするとがん細胞が増えるとともに、免疫細胞の機能が衰えるため、がんができやすくなります。(注2
リスクファクター
老化以外にも膵臓がんができやすくなる要因があり、これをリスクファクターと呼びます。
- 家族歴:散発性膵癌・家族性膵癌家系、近親者に膵臓がん患者が多いほどリスクが増す
- 遺伝性:遺伝性膵癌症候群
- 嗜好:喫煙・多量の飲酒
- 生活習慣病:糖尿病・肥満
- 膵疾患:慢性膵炎・膵管内乳頭粘液性腫瘍・膵のう胞・膵管拡張
- その他:胆石・胆のう摘出後・O型以外の血液型・ヘリコバクターピロリ感染・B型肝炎・C型肝炎(注3
膵臓がんの症状
膵臓がんでは腹痛・食欲不振・早期膨満感・黄疸・体重減少・背部痛などの症状がみられます。
ただし膵臓がんに特異的な症状はないため、早期発見の指標にはなりません。
そのせいもあり、多くは進行がんで発見されます。(注3
膵臓がんの検査
膵臓がんを発見・診断するための検査をご紹介します。
血清膵酵素・腫瘍マーカー
血清アミラーゼ・リパーゼ・エラスターゼ1・トリプシンといった膵酵素が高値を示します。
ただし膵臓がんに特異的ではないため、これだけでは膵臓がんと診断できません。
さらにCA19-9・Span-1・Dupan-2・CEA・CA50といった腫瘍マーカーが高値を示すことがあります。 (注3
腹部超音波検査(US)
すい臓がんを疑った場合に第一選択となる検査です。
主膵管の拡張・腫瘤などの所見がみられます。
外来・健診などのスクリーニング検査としても利用されます。(注3
腹部造影CT
造影剤を使って膵臓がんを見つけやすくするCT検査です。
腫瘤像・膵管拡張・狭窄・胆管拡張などの所見がみられます。(注3
腹部MRI
腹部CTよりも診断感度が高いのが特徴です。
通常のMRIにも拡散強調像(DWI)・MR胆管膵管造影(MRCP)といった撮影法が有益です。(注3
超音波内視鏡(EUS)
内視鏡検査中に、深触子を膵臓に近接して固定し、超音波で調べる検査です。
高い空間分解能をもち、CTよりも感度が高いのが特徴です。
遺伝性のリスクがある場合に小さな膵臓がんの診断に有用です。
ただし一般の臨床の場では普及していません。(注3
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)
早期膵臓がんのなかにはCT/MRIで腫瘤として捉えられないものがあります。
他の画像診断で膵臓がんと炎症性病変とが鑑別できない膵管狭窄の場合、早期膵臓がんの可能性がある膵管狭窄の場合に行われます。
急性膵炎を起こすリスクを伴うのがデメリットです。(注3
超音波内視鏡下穿刺吸引生検(EUS-FNA)
EUS検査中に膵臓腫瘤を穿刺吸引することで細胞を取って病理診断する検査です。
膵臓の腫瘤には、膵臓がん・神経内分泌腫瘍・転移性膵腫瘍・自己免疫性膵炎などが含まれます。
手術療法・化学療法の前に、これらを鑑別するために病理診断が必要な場合に用いられます。
出血・膵炎を起こすリスクを伴い、できる施設が限られます。(注3
腹部超音波ガイド下穿刺生検
超音波で膵臓の腫瘤を確認しながら、おなかの上から生検針を穿刺して組織を取る検査です。
EUS-FNAを行えない施設に適しています。
観測装置・術者の熟練度が診断制度に影響します。(注3
針生検による遺伝子異常診断
EUS-FNA・腹部超音波ガイド下穿刺生検などの針生検検体を用いて、膵癌に関係した遺伝子異常の有無を調べます。(注3
FDG-PET
放射性ブドウ糖液を注射して、がん細胞への取り込み状況を撮影し、がんの全身への転移・再発の有無を調べる検査です。
遠隔転移が疑われる場合に適用されます。
審査腹腔鏡
全身麻酔をかけて、おなかに小さな穴を開け、腹腔鏡を挿入し、おなかの中を観察する方法です。
微小肝転移・腹膜転移の検索に有用であり、膵臓がんの病期診断の評価に利用されます。
膵臓がんの病期(ステージ)
がんの進展度、転移の有無、切除の可能性評価から病期を判定し、治療戦略を練ります。
日本膵臓学会の膵癌取扱い規約にガイドラインが示されています。
膵局所進展度
局所における膵臓がんの進展度をTで表します。
- T0:原発腫瘤を認めない
- Tis:非浸潤がん
- T1:腫瘍が膵臓に限局しており最大径20mm以下
- T2:腫瘍が膵臓に限局しており最大径20mm以上
- T3:腫瘍が膵臓を超えて進展しており腹腔動脈/上腸管膜動脈に及ばない
- T4:腫瘍が膵臓を超えて進展しており腹腔動脈/上腸管膜動脈に及ぶ
リンパ節転移
リンパ節転移の有無をNで表します。
- N0:リンパ節転移を認めない
- N1:リンパ節転移を認める
遠隔転移
肝臓や肺などの遠隔転移の有無をMで表します。
- M0:遠隔転移を認めない
- M1:遠隔転移を認める
進行度(ステージ)
T・N・Mの組み合わせから、膵臓がんの進行度(ステージ)を判定します。
ステージの数値が大きいほど、膵臓がんが進行しています。
ステージ0 | Tis | N0 | M0 |
---|---|---|---|
ステージⅠA | T1 | N0 | M0 |
ステージⅠB | T2 | N0 | M0 |
ステージⅡA | T3 | N0 | M0 |
ステージⅡB | T1, T2, T3 | N1 | M0 |
ステージⅢ | T4 | Any N | M0 |
ステージⅣ | Any T | Any N | M1 |
膵臓がんの治療
膵臓がんの診断、ステージ判定の後に治療法を選択します。
ステージ別の治療方針
- ステージ0:外科的治療
- ステージⅠ、ステージⅡで切除可能例:術前補助療法+外科的治療+術後補助療法
- ステージⅡ・Ⅲで切除可能境界例:化学療法・化学放射線療法、再評価後に切除可能となれば外科療法を追加
- ステージⅢで切除不能例:化学療法・化学放射線療法
- ステージⅣ:化学療法
切除が可能な膵癌は、外科的切除例で明らかに生存率が高くなります。(注4
膵切除術
外科的な膵切除術が唯一治癒の期待できる治療法です。
- 膵頭十二指腸切除術
- 十二指腸温存膵頭切除術
- 膵尾部切除術
- 膵体部切除術など
ただし膵臓がんは早期に発見するのが難しく、切除可能例は全体の15~20%程度です。
術後5年間、腫瘍マーカー(CA19-9)・造影CTなどで経過観察します。(注4
補助化学療法
切除術のみでは再発率が高いため、術前・術後に補助化学療法を行うのが標準的な治療です。(注3
放射線療法・化学放射線療法
放射線を腫瘍に照射したり、化学療法と組み合わせたりして治療する方法です。
- 局所進行切除不能膵癌に対する化学放射線療法
- 手術の補助療法としての術前化学放射線療法
- 緩和的放射線療法(注3
化学療法
手術が不能の場合に、抗がん薬を用いた化学療法が行われます。
一次化学療法
手術不能の場合、手術後に再発した場合に、抗がん薬でがんの進行を遅らせる治療です。
延命ならびに症状の緩和が目的です。
二次性化学療法
一次性化学療法が効かなくなった場合に検討されます。
がん遺伝子検査の結果に基づいて治療薬を選びます。(注3
ステント療法
膵臓がんのため十二指腸が狭くなっている部分へ、内視鏡を用いて金属製の管(ステント)を挿入して広げ、食べ物の通り道を作る治療です。(注3
支持・緩和療法
膵臓がんの症状、治療の副作用、後遺症などを和らげる治療です。
全てのステージに対して行われます。
- 痛みに対して鎮痛薬・神経ブロック
- 骨転移の痛みに対して放射線治療など(注3
膵臓癌の生存率
全国で膵臓がんと診断された登録者の5年後の生存率を調べたデータです。
膵臓がんのみが死因となる状況を仮定して計算しています。
- 全体:12.7%
- ステージⅠ:53.4%
- ステージⅡ:22.5%
- ステージⅢ:6.2%
- ステージⅣ:1.6%
まとめ
膵臓がんとは、膵臓にできるがんで、多くは膵管に発生します。
遺伝、喫煙、多量の飲酒、生活習慣病などが発病のリスクファクターです。
腹痛・食欲不振・早期膨満感・黄疸などの症状がみられます。
腹部超音波検査、腹部造影CT、MRIなどの検査で診断します。
外科的な膵切除術が唯一治癒の期待できる治療法ですが、多くは進行した状況でみつかり、放化学療法・放射線療法などで治療します。
全ステージを合計した5年生存率が12.7%と予後不良な疾患です。