脂質異常症とは?
原因・症状・治療について解説
脂質異常症という病名を聞いたことがあると思います。
以前は高脂血症と呼ばれていた病気です。
この2つはどこが違うのでしょうか?
この記事では、脂質異常症の定義・原因・症状・続発症・治療について解説します。
これを読めば脂質異常症のことがよく分かるでしょう。
生活習慣病が気になる方は、役立ててみてください。
脂質異常症とは
脂質異常症とは、血液中の脂質の値が正常値から外れた状態のことです。
血液中の脂質には、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)、トリグリセライド(中性脂肪)の3種類があります。
脂質異常症は動脈硬化を促進するため問題視されます。(注1
脂質異常症の種類・診断基準
血液検査で以下のような基準を満たすとき脂質異常症と診断されます。
LDLコレステロール | 140mg/dL以上 | 高LDLコレステロール血症 |
---|---|---|
120~139mg/dL | 境界域高LDLコレステロール血症 | |
HDLコレステロール | 40mg/dL未満 | 低HDLコレステロール血症 |
トリグリセライド | 150mg/dL以上(空腹時*) | 高トリグリセライド血症 |
175mg/dL以上(随時) | ||
Non-HDLコレステロール** | 170mg/dL以上 | 高non-HDLコレステロール血症 |
150~169mg/dL | 境界域高non-HDLコレステロール血症 |
*10時間以上絶食した状態を空腹時とします。
**総コレステロール値からHDLコレステロール値を引いたものです。(注1
脂質異常症と高脂血症の違い
従来は高脂血症と呼ばれていたのですが、低HDLコレステロール血症も問題視されるようになり、脂質異常症という病名に変更されました。
脂質異常症の原因
食事の影響、運動不足、喫煙などが脂質異常症の原因です。
LDLコレステロールが高値になる原因
飽和脂肪酸の取り過ぎが主な原因です。
飽和脂肪酸が多く含まれる食材の例を示します。
肉の脂身・バター・ラード・生クリーム・パームヤシやカカオの油脂・インスタントラーメンなど
食材に含まれるコレステロールも関係しますが、飽和脂肪酸よりも影響は少なめです。
コレステロールは、鶏卵の黄身・魚卵などに含まれます。(注1
HDLコレステロールが低値になる原因
肥満・運動不足・喫煙が主な原因です。
多くの場合、LDLコレステロールやトリグリセライドの上昇と連動します。(注1
トリグリセライドが高値になる原因
エネルギー量の取り過ぎが主な原因です。
主に甘いもの・糖質・酒・油などの取り過ぎが考えられます。(注1
Non-HDLコレステロールが高値になる原因
LDLコレステロールの増加、HDLコレステロールの低下、トリグリセライドの増加が絡み合って、non-HDLコレステロール値が高くなります。
瘦せているのになぜ脂質異常症になるの?
脂質異常症の方は必ずしも太っているわけではありません。
総エネルギー摂取量は少なくて痩せていても、食生活の偏りで飽和脂肪酸を取り過ぎるとLDLコレステロールが高くなります。
また見た目は太っていなくても、内臓脂肪が多い場合もあります。
さらに遺伝や糖尿病・甲状腺機能低下症などの病気が原因で脂質異常症になることもあります。
脂質異常症の症状・続発症
脂質異常症は特に症状はありません。
ではなぜ問題にされるかというと、動脈硬化の危険因子になるからです。
さらに動脈硬化は動脈硬化性疾患を引き起こします。(注2
脂質異常症は動脈硬化の危険因子
脂質異常症が続くと、動脈の内壁に余分な脂が沈着し、プラークと呼ばれる塊ができます。
プラークが大きくなると動脈壁が分厚くなり、動脈の内径が小さくなります。
こういった動脈壁の変化を「粥状動脈硬化(じゅくじょうどうみゃくこうか)」と呼びます。
またプラークは柔らかくて破れやすいのですが、破れると血小板が集まり血栓ができます。
この血栓のせいでも動脈の内腔がさらに小さくなります。
こうして動脈の内腔が狭まっていき、ついには動脈がつまってしまいます。
動脈がつまると、その先に血液が流れなくなり、血液の途絶えた臓器や組織が死んでしまいます(壊死)。(注2
動脈硬化の続発症
動脈がつまる場所により、冠動脈疾患・脳梗塞・末梢動脈疾患・大動脈瘤・大動脈解離などを起こします。(注3
冠動脈疾患
心臓から出た動脈には心臓自らを養う冠動脈も含まれます。
冠動脈は左冠動脈・右冠動脈に分かれ、さらに左冠動脈は前下行枝と回旋枝に分かれます。
これらの冠動脈は心臓全体を覆って血液を送り出します。
冠動脈に動脈硬化が起こると、内腔が狭まっていき、ついにはつまってしまいます。
狭くなった冠動脈がけいれんを起こし、心臓に行く血液が一時的に不足するのが狭心症です。
そして冠動脈がつまってしまうのが心筋梗塞です。(注3
脳梗塞
脳を養う動脈が細くなったりつまったりすると、脳の組織が死んでしまい、脳梗塞を起こします。
脳梗塞は動脈のつまる箇所により症状が異なります。
体の片側の感覚がなくなり動かなくなる(片麻痺)、言葉をうまく話せなくなる、目が見えなくなる、体のバランスがとれなくなるといった症状がみられます。
また認知症の原因になることもあります。(注3
末梢動脈疾患
主に股・膝・足の血管が細くなり、血行が悪くなったり、つまったりします。
最初は症状がありませんが、進行すると症状がでてきます。
歩くと脚が痛くなって歩けなくなりますが、少し休むと元に戻ります。
これを間欠性爬行(かんけつせいはこう)と呼びます。(注3
また急に動脈がつまって、脈が触れなくなり、冷たく蒼白になり、知覚がなくなって、麻痺して動かなくなることがあります。
これを急性動脈閉塞と呼び、早急に治療が必要です。
放っておくと脚の切断を余儀なくされることがあります。(注4
大動脈瘤・大動脈解離
胸や腹の大動脈に動脈硬化を起こすと、動脈が細くなるかわりに、こぶのように腫れることがあります。
これを大動脈瘤と呼びますが、急に破裂することがある病気です。
また大動脈解離といって大動脈が裂ける病気もあり、急死することがあるため注意が必要です。(注3
脂質異常症の治療
それでは脂質異常症を治す方法をご紹介します。
治療法として食事療法・生活習慣の改善・薬物療法があります。
脂質異常症は治るのか
「治る」という意味によって回答が違いますが、ちゃんと治療すれば脂質の値を改善させることができます。
脂質の値が改善すれば、動脈硬化の発症リスクが下がります。
治療のためには、まず食生活の改善が必要です。
今まで通りの食生活を続けても大丈夫な方法はありません。
脂質異常症の食事療法
原因となる食事の内容を改善するのが、食事療法の基本です。
次のような点に注意してください。
- ダイエットして標準体重を維持する
- 肉の脂身・乳製品・卵黄の摂取を控え、魚類・大豆製品を増やす
- 野菜・果物・海草類をしっかり取る(注2
動脈硬化予防のための生活習慣の改善
食事以外にも以下の点に注意してください。
- アルコールの過剰摂取を控える
- 禁煙する
- 有酸素運動を1日30分以上、週3日以上行う(注2
脂質異常症の治療薬
食事療法・生活習慣の改善を行っても脂質の値が改善しない場合、脂質異常症治療薬を服用します。
ただし治療効果に限界があり、薬だけ服用しても意味がありません。
必ず食事療法・生活習慣の改善も続けてください。
代表的な治療薬を示します。
分類 | 代表的な薬 | LDL-C | Non-HDL-C | TG |
---|---|---|---|---|
スタチン | メバロチンリポバスクレストール | 20~50%改善 | 20~50%改善 | 10~20%改善 |
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬 | ゼチーア | 20~30%改善 | 20~30%改善 | 10~20%改善 |
フィブラート系薬 | ベザトールSR | 10~20%改善逆に上がることもあり | 10~20%改善 | 30~50%改善 |
脂質異常症の種類、治療薬の副作用を考慮しながら治療薬を選択します。
医師の指示に従い服薬を続けてください。
まとめ
脂質異常症とは、血液中の脂質の値が正常値から外れた状態のことです。
低HDLコレステロール血症が含まれる点が高脂血症との違いです。
食事の影響、運動不足、喫煙などが原因となり、脂質異常症は起こります。
脂質異常症に症状はありませんが、動脈硬化から動脈硬化性疾患を引き起こすため、治療が必要です。
治療法として、食事療法・生活習慣の改善・薬物療法があります。
脂質異常症は自覚症状がなく、血液検査で初めて見つかる病気です。
ですから健診などで定期的に検査したほうがよいでしょう。
そして脂質異常症がみつかった場合は、ちゃんと治療を受けてください。