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機能性ディスペプシアとは?病態・原因・症状・治し方について解説

機能性ディスペプシアという病名を聞いたことがあるでしょうか?
あまり知られていない病名ですが、胃痛や胃もたれなどの症状を示し、しばしば見かける病気です。

本記事では、機能性ディスペプシアの定義・疫学・病態・原因・症状・診断・検査・治療について解説します。
これを読めば機能性ディスペプシアの概要が理解できるでしょう。
慢性的な胃の痛みがある人は役立ててみてください。

機能性ディスペプシアとは

そもそもディスペプシアの語源は、ギリシャ語のdys(bad)pepsis(digestion)であり消化不良を意味しますが、時代とともに意味が変わってきました。
今でいう機能性ディスペプシアは、症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないにも関わらず、慢性的にみぞおちの痛みや胃もたれなどの心窩部を中心とした腹部症状をおこす疾患です。

たとえば胃の痛みが続き、胃カメラ検査を受けたら「異常はない」といわれたときは、機能性ディスペプシアの可能性があります。

慢性胃炎と混同されがちですが、異なる疾患です。
またヘリコバクター・ピロリの感染によってディスペプシア症状を起こすことがあり、ヘリコバクター・ピロリ関連ディスペプシアと呼ばれます。(注1

機能性ディスペプシアは難病の指定を受けています。
難病とは発病の機構が明らかでなく、治療方法が確立しておらず、希少な疾病で、長期の療養を必要とする疾患です。
そして医療費助成の対象になっています。(注2

機能性ディスペプシアの疫学

日本では、健診受診者の11~17%で機能性ディスペプシアがみられると報告されています。
また上腹部症状があって病院を受診した人のうち、45~53%で機能性ディスペプシアがみられたという報告があります。

さらに機能性ディスペプシアになりやすい人の特徴は以下のように報告されています。

  • 遺伝子多型(遺伝子の表現型に致命的な影響を与えない範囲の遺伝子の個体差のこと)
  • 幼少時期に虐待を受けている
  • 感染性胃腸炎後
  • 女性
  • 若年者 (注1

機能性ディスペプシアの病態・原因

機能性ディスペプシアでみられる胃・十二指腸の構造や機能の変化(病態)と、それを引き起こす原因について解説します。
結論から言えば、機能性ディスペプシアの原因は確定していません。

ただし原因との関連が考えられる複数の要因が見つかっています。

  • 生理的機能:胃十二指腸運動異常・内臓知覚過敏・消化管の微小炎症
  • 心理社会的要因:性格・心理状態・対処能力・社会的支援
  • 幼少期の遺伝・素養・環境
  • ライフスタイル:食事内容・運動・睡眠など(注1

胃・十二指腸運動能異常

機能性ディスペプシアでは、胃が十分に膨らまず、少量食べるだけでおなかがいっぱいになってしまうといった「胃適応性弛緩障害」がみられることがあります。
また胃が食べ物を十二指腸へ送り出す能力が遅れたり、逆に亢進したりします。
さらに十二指腸から胃へ逆流がみられることもあります。(注1

こういった胃・十二指腸の運動機能の異常は、ストレスによる自律神経の乱れが原因の一つといわれています。(注3

内臓知覚過敏

機能性ディスペプシアでは、胃や十二指腸の知覚過敏がみられることがあります。
通常よりも少なめの食べ物で胃の膨満感を感じたり、胃の痛みを感じたりします。
また十二指腸に酸や脂肪が入るとき、過剰な嘔気や不快感が生じることがあります。(注1

胃酸の影響

機能性ディスペプシアでは、胃酸の分泌量は健常者と同じという報告が多くみられます。
ただし胃酸に対する知覚過敏がディスペプシアの症状と関係していると考えられています。
また胃液が十二指腸へ急速に排出されることで、十二指腸の運動が低下し、十分に膨らまなくなっている可能性があります。(注1

感染性胃腸炎

発熱・悪心・嘔吐・下痢をきたす感染性胃腸炎において、回復後も機能性ディスペプシアの発症がみられることがあります。(注1

胃・十二指腸の微小炎症

機能性ディスペプシアでは、胃・十二指腸の粘膜に好酸球・肥満細胞をはじめとする炎症性細胞の浸潤がみられることがあります。
こうした微小炎症が機能性ディスペプシアの発症に関係している可能性があります。(注1

心理社会的要因

機能性ディスペプシアでは、幼少時の体験、日常生活でのストレス、不安、抑うつといった心理社会的要因が関連することがあります。
とりわけ不安、抑うつの傾向が強いと、治療しても症状が改善しにくいようです。(注1

遺伝的要因・家族歴

機能性ディスペプシアは、遺伝子多型が関連していると報告されています。(注1
遺伝子多型とは、遺伝子の表現型に致命的な影響を与えない範囲の遺伝子の個体差のことで、人口の1%以上の頻度で存在します。(注4
また家族歴が関係するとの報告もあります。(注1

生活環境

幼少期、思春期での被虐待歴は機能性ディスペプシアと関係する場合があります。
被虐待歴が胃の知覚過敏や運動異常に影響を与えるといわれます。
とりわけ性的虐待の場合は影響が強くみられます。(注1

ライフスタイル

機能性ディスペプシアにかかる人は、日頃の運動習慣が少ないと報告されています。
また夜間睡眠中に覚醒したり、起床時に熟眠感が得られなかったりする場合が多くみられます。

食習慣では、高脂肪食をとると吐き気、腹痛を起こしやすいためか、脂肪の摂取量が少ない傾向がみられます。
また不規則な食事パターン、早食い、夜間に高脂肪食をとるといった食習慣は、機能性ディスペプシアを起こしやすいと考えられます。(注1

機能性ディスペプシアの症状

以下の症状のうちいずれかが3カ月以上みられます。

  • みぞおちの痛み
  • みぞおちの焼ける感じ
  • 食後の胃もたれ感
  • すぐに胃がいっぱいになったと感じて食事を十分量摂取できない (注5

機能性ディスペプシアの診断・検査

機能性ディスペプシアの診断のために、自己記入式質問票、上部消化管内視鏡検査、消化管機能検査が用いられます。

自己記入式質問票

機能性ディスペプシアの症状は人によって異なり、同じ人でも受診日によって異なります。
そこで客観的に症状を把握するためのツールとして自己記入式質問票が有用です。
機能性ディスペプシアでよくみられる症状を記載してあり、質問に答えることで症状の有無を確認します。
また症状の程度を把握できるため、客観的なデータを集められるのがメリットです。(注1

上部消化管内視鏡検査

機能性ディスペプシアの診断には器質的な疾患の除外が必要ですが、上部消化管内視鏡検査は必ずしも必須ではありません。
ただし高齢者の新たな症状発現、体重減少、嚥下困難、再発性の嘔吐、出血、腹部腫瘤、治療してもなかなか改善しないといった器質的疾患を疑う徴候がみられる場合は、内視鏡検査ならびに腹部CT検査などを行います。(注1

消化管機能検査

胃・十二指腸運動機能異常、内臓知覚過敏の有無を調べるために、消化管内圧測定、胃電図、超音波検査、ラジオアイソトープ検査などがありますが、特殊な検査であり、一般の医療機関では行われません。(注1

機能性ディスペプシアの治し方

機能性ディスペプシアの治療法について解説します。

生活習慣・食生活の改善

生活習慣・食生活の改善は機能性ディスペプシアを治すために有用であり、ガイドラインでも強く推奨されています。
以下のような項目が大切です。

  • 一度にたくさん食べずに複数回に分ける
  • 高脂肪食を避ける
  • 禁煙
  • アルコール・コーヒー摂取を避ける(注1

機能性ディスペプシアの治療薬

機能性ディスペプシアの症状を改善するためには酸分泌抑制薬・消化管運動改善薬・漢方薬・抗うつ薬・抗不安薬が有用です。(注1

酸分泌抑制薬

以下の薬が有用ですが、保険適用がありません。

  • プロトポンプ阻害薬
  • ヒスタミンH₂受容体拮抗薬
  • カリウムイオン競合型アシッドブロッカー
消化管運動改善薬
  • アセチルコリンエステラーゼ阻害薬:アコチアミドが保険適用薬です
  • ドパミン受容体拮抗薬:メトクロプラミド・ドンペリドン・スルピリド・イトプリド
  • セロトニン5-HT₄受容体作動薬:モサプリド
漢方薬
  • 六君子等:胃運動機能改善に有効
  • 半夏厚朴湯・加味逍遙散:有用である可能性がある
抗うつ薬・抗不安薬
  • イミプラミン
  • スルピリド
  • タンドスピロン

心療内科的治療

認知行動療法、催眠療法、自律神経訓練法が、機能性ディスペプシアの症状改善のために有効です。(注1

鍼(はり)治療

鍼(はり)治療は、機能性ディスペプシアの症状改善のために有効という報告が中国でみられます。(注1

まとめ

機能性ディスペプシアとは、胃カメラなどの検査では異常がないのに、慢性的にみぞおちの痛みや胃もたれなどの心窩部を中心とした腹部症状をおこす疾患です。
健診受診者の11~17%で機能性ディスペプシアがみられると報告されています。
胃十二指腸運動異常、内臓知覚過敏、心理社会的要因、遺伝、幼少期の素養、環境、ライフスタイルなど多くの要因が発症と関連していると考えられています。
生活習慣・食生活の改善、酸分泌抑制薬、消化管運動改善薬などによって治療されます。

参考資料

注1) 機能性ディスペプシアガイドライン2021

注2) 指定難病の要件について|厚生労働省 - PDF

注3) 機能性ディスペプシア 原因はストレス、自律神経の乱れ、胃の働きの異常|NHK 

注4) 遺伝子多型 - 日経バイオテク 

注5) 機能性ディスペプシア (FD) - KOMPAS - Keio University 

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