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便秘症の定義・診断・治療をガイドラインに沿って解説

便秘症は老若男女でよくみられる病気の一つです。
しかしいろいろな病態と原因がみられ、治療法もさまざまです。
どうしたら便秘症が改善するのか、分かりにくいかもしれません。

本記事では、便秘症の定義、症状、診断、分類、検査、治療について解説します。
これを読めば便秘症の概略が分かります。
便秘症を治療する際に役立ててみてください。

便秘症とは

便秘症とは、本来排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態のことです。
つまり排便回数が減っているだけではなく、すっきりと排便できない場合も便秘症に含まれます。(注1

便秘症の症状

便秘症では次の6つのうち2つ以上の症状がみられます。

  • 排便回数が週に3回未満
  • 排便時に強くいきむ必要がある
  • 肛門がつまったように感じて排便が困難に感じる
  • コロコロした糞便または硬い糞便である
  • 残便感を感じる
  • 摘便・会陰部圧迫などの排便介助が必要(注1

このうち、排便回数の減少、排便困難感、残便感は便秘症の三大愁訴(しゅうそ)と呼ばれます。(注2

腹痛

また十分量の糞便を排出できないことで、腸管の中に糞便がたまると腹が張り、腹痛を起こすこともあります。(注2

便秘症の診断

典型的な症状から便秘症と診断した後に、二次性便秘症を除外します。
そして残りを機能性便秘症と呼びます。(注1

二次性便秘症

他の病気があって便秘症になっている場合です。
症状や検査から原因となる病気を診断します。

  • 大腸の器質的疾患:痔核・直腸脱・大腸腫瘍による腸閉塞など
  • 内分泌・代謝疾患:糖尿病・甲状腺機能低下症など
  • 神経疾患:脳血管疾患・パーキンソン病・脊髄損傷など
  • 膠原病:全身性硬化症・皮膚筋炎など
  • 変性疾患:アミロイドーシスなど
  • 精神疾患:うつ病、心気症など
  • 薬剤の副作用:抗コリン薬・向精神薬・抗パーキンソン病薬・利尿薬など(注1

便秘症の検査

便秘症の病態を調べるための検査を示します。
病態とは、病気によって引き起こされた人体の構造と機能の変化です。

大腸カメラ検査

二次性便秘症を起こす最も重要な病気は大腸がんです。
大腸がんと知らずに便秘症の治療をしていても本末転倒です。
ですから頑固な便秘症を起こした時は、まず大腸カメラを行い、がんや大きなポリープがないかを調べます。(注2

腹部レントゲン・CT検査

糞便が大腸のどのあたりにつまっているかを調べるために、腹部レントゲンあるいは腹部CT検査を行います。
この検査結果によって治療方針が異なる場合があります。(注2

大腸通過時間検査

20個のX線不透過マーカー(レントゲン写真に映る小さなカプセル)を経口投与して、腹部レントゲン検査で追跡する方法です。
マーカーを経口摂取してから肛門から排せつされるまでの時間を測定します。
正常の場合、マーカー投与後3日以内に最初のマーカーが排せつされ、5日目までに80%以上のマーカーが排せつされます。
マーカー投与後3日後にマーカーが40%以上残っている場合に大腸通過遅延型便秘症と診断されます。
ただし日本ではこの検査の保険適応がなく、一部の専門施設で行われているだけです。(注4

排便造影検査

肛門からバリウムと小麦粉、水を混ぜて作った擬便を入れて、排便するように力んでもらい、その状態をレントゲンで撮影する検査です。
排便時の直腸肛門の動きや形を知ることができます。
ただし日本ではこの検査の保険適応がなく、一部の専門施設で行われているだけです。(注5

機能性便秘症の分類

機能性便秘症は症状や病態によって分類されます。
ただし必ずしも一つのタイプに当てはまるわけではなく、複数の要因が加わって便秘症を起こす点に注意してください。
分類にこだわらず、便秘症の病態・原因の一覧と考えるとよいでしょう。

症状による分類

便秘症の主な症状による分類です。

排便回数減少型

排便回数が週に3回未満になるタイプ

排便困難型

排便困難感・残便感がみられるタイプ (注1

病態による分類Ⅰ

この分類は大腸通過時間・排便造影といった特殊な検査を行ったうえで診断するのが原則のため、一般的に用いるのは難しいかもしれません。
ただし考えられる原因から病態を推定できます。

大腸通過遅延型

糞便が大腸の中を通過する時間が長くなることで便秘となるタイプです。

  • 二次性便秘症
  • 特発性便秘症:原因になる特定の病気がない便秘(注1
大腸通過正常型

糞便が大腸の中を通過する時間は正常にもかかわらず便秘となるタイプです。
以下のような原因・病態が考えられます。

  • 食事の摂取不足
  • 食物繊維摂取不足
  • 硬便による排便困難など(注1
機能性便排出障害

排便するための機能が低下して起こるタイプです。
以下のような病態が考えられます。

  • 腹圧低下
  • 直腸感覚低下
  • 直腸収縮力低下など(注1

病態による分類Ⅱ

一般的によく用いられる分類を示します。
こちらの分類も、原因から病態を推定することが一般的です。(注3

弛緩性便秘

大腸は腸管の動き(ぜん動運動)によって糞便を直腸まで運びます。
大腸を動かす筋肉が緩んで、ぜん動運動が弱まると、糞便をうまく運べなくなり便秘を起こします。

大腸通過遅延型に当てはまります。

原因は以下のとおりです。

  • 朝食をとらない習慣
  • 運動不足
  • 加齢 (注3
痙攣性便秘

大腸のぜん動運動が不規則になって、糞便が通過するのに時間がかかることで起こる便秘が痙攣性便秘症です。
大腸通過遅延型に当てはまります。
原因は以下のとおりです。

  • ストレス (注3
直腸性便秘

大腸から運ばれてきた糞便が直腸に入ると、直腸にあるセンサーが働いて便意をもよおします。
そしてトイレに行くと、肛門を閉じている肛門括約筋が緩み、排便が起こります。
ところが便意をもよおしても、すぐにトイレに行かない習慣があると、直腸のセンサーの働きが鈍くなり、便意が分かりにくくなります。
これによって起こるのが直腸性便秘です。
機能性便排出障害に当てはまります。
原因は以下のとおりです。

  • 女性によくみられる便意を我慢する習慣
  • 温水洗浄便座の水を肛門の中まで入れる習慣(注3

便秘症を改善するための治療

便秘症を改善する方法として、生活習慣の改善、プロバイオティクス、便秘薬、精神・心理療法、外科的治療があります。

生活習慣の改善

適切な食事、適切な運動は便秘症を改善します。(注1

  • 生活のリズムを整える
  • 便意を感じたらすぐにトイレへ行く
  • 適切な運動を習慣にする
  • 1日3食を規則正しく摂取
  • 水分をしっかりとる
  • 大腸通過正常型便秘症では食物繊維をしっかり取る(注10
  • 腹壁マッサージも効果があります(注1

プロバイオティクス

乳酸菌・ビフィズス菌が有名です。
腸内の良い菌を増やし悪い菌を減らすことで便秘や下痢を抑えます。(注11

便秘症の治療薬

さまざまな種類の薬があり、便秘の病態に合わせて使用します。
「浸透圧下剤」ならびに新しい便秘薬である「上皮機能変容薬」がおすすめの薬です。(注1

浸透圧性下剤

浸透圧を利用して腸内で水分分泌を引き起こし、糞便を軟化させることで排便回数を増やします。

  • 酸化マグネシウム
  • ラクツロース
  • ポリエチレングリコール製剤 (注6

酸化マグネシウムを用いるときには、高マグネシウム血症を予防するため、定期的にマグネシウム濃度を測定することが必要です。(注1

上皮機能変容薬

比較的新しい便秘薬であり、以下の3種類が含まれます。

  • ルビプロストン:小腸液の分泌を促進
  • リナクロチド:腸管分泌・腸管輸送能を促進し、腹痛などの腹部症状を和らげます
  • エロビキシバット:胆汁酸の再吸収を阻害し、胆汁酸の量を増やすことで大腸の水分を増加させるとともに、腸管のぜん動運動を改善します(注7

ただし若年女性に悪心の副作用がみられやすく、妊婦には投与が禁忌です。(注1

膨張性下剤

大腸で水分を吸収して膨らみ、便の量を増やす薬です。

  • プランタゴ
  • オバタなど(注8

便秘型過敏性腸症候群に有効です。(注1

刺激性下剤

大腸に直接作用してぜん動運動を促します。

  • ビサコジル
  • センナ
  • ピコスルファートなど (注8

頓用または短期間投与に用いる便秘薬です。(注1

消化管運動賦活薬

腸管のぜん動運動を改善する薬です。

  • モサプリドクエン酸塩 (注9

ただし日本で使えるのは、この薬だけです。(注1

漢方薬

一部の漢方薬は有効です。(注1

  • 大黄甘草湯
  • 調胃承気湯など (注9
浣腸・坐薬
  • グリセリン浣腸
  • 炭酸水素ナトリウム坐剤:二酸化炭素を発生して腸内を刺激します(注9

精神・心理療法

慢性便秘症に対して有効である可能性があります。(注1

外科的治療

直腸脱・直腸重積などが便秘の原因の場合は外科的治療が有効です。
大腸通過遅延型便秘に対して結腸全摘+回腸直腸吻合術が有効なことがあります。(注1

まとめ

便秘症とは、本来排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態のことです。
排便回数の減少、排便困難感、残便感などの症状がみられます。
便秘症のうち、他の病気があって便秘症になっている二次性便秘症を除外することで機能性便秘症と診断されます。

二次性便秘症を起こす最も重要な病気は大腸がんです。
ですから頑固な便秘症を起こした時は、まず大腸カメラ検査を行い、がんや大きなポリープがないかを調べてください。

機能性便秘症は、症状や腹部レントゲン・CT検査、大腸通過時間検査・排便造影検査などから、便秘を起こす病態を調べ、原因を探ります。
そのうえで生活習慣の改善、プロバイオティクス、便秘薬などで治療します。

参考資料

注1) 慢性便秘症診療ガイドライン2017 - PDF

注2) 慢性便秘症|兵庫医科大学病院 

注3) 便秘|日本臨床内科医会 

注4) 便秘症診断における大腸通過時間検査法の臨床的検討|日本大腸肛門病学会誌 - PDF

注5) おしりの機能検査―うんち漏れや便秘、糞づまりはちゃんと検査してから治療しよう!日本大腸肛門病学会 

注6) 浸透圧下剤|日本内科学会雑誌 - PDF

注7) 健康情報誌「消化器のひろば」No.15-7|日本消化器病学会 

注8) 便秘薬の種類と選び方|大正製薬 

注9) 【4】Q&A 慢性便秘症の薬物治療について|大分大学医学部 - PDF

注10) 便秘と食習慣|e-ヘルスネット 

注11) プロバイオティクス | 健康用語の基礎知識 - ヤクルト中央研究所 

注12) バイオフィードバック療法 - J-Stage - PDF

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