ヘリコバクター・ピロリ感染症の概要・検査・除菌療法について
「ヘリコバクター・ピロリは胃がんの原因になるので除菌したほうがよい」
といった話を聞いたことがあるかもしれません。
それではヘリコバクター・ピロリとは何なのでしょうか?
この記事では、ヘリコバクター・ピロリの意味、感染経路、引き起こされる病気、検査、除菌療法について解説します。
これを読めば、ヘリコバクター・ピロリのことが分かります。
胃カメラの検査を検討する際に役立ててみてください。
ヘリコバクター・ピロリとは
胃の中に存在するらせん状の細菌です。
「ヘリコ」は旋回を、「バクタ―」はバクテリアを、そして「ピロリ」は胃の幽門部分(ピロルス)を意味する言葉です。
これらの言葉を合成して「ヘリコバクター・ピロリ」と名付けられました。
以前から病理学者は、胃の中にらせん状の細菌がいることを知っていました。
1983年にロビン・ウォーレン博士とバリー・マーシャル博士が、この菌の繁殖に成功し、2005年にノーベル生理学賞・医学賞を受賞されています。
ヘリコバクター・ピロリは、胃・十二指腸潰瘍の原因となり、胃がんやMALTリンパ腫を引き起こす危険因子として知られています。(注1
ヘリコバクター・ピロリの感染経路
ヘリコバクター・ピロリは唾液を介して口から感染するのではないかと考えられています。
ただしはっきりとしたエビデンスはありません。(注3
ヘリコバクター・ピロリ感染症が引き起こす病気
ヘリコバクター・ピロリは胃の粘膜に感染して胃に炎症を起こします。
そして胃粘膜の慢性的な炎症から引き起こされると考えられている病気は以下のとおりです。
- ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎
- 胃過形成ポリープ
- 胃食道逆流症
- 機能性ディスペプシア
- 胃十二指腸潰瘍
- 胃がん
- 胃MALTリンパ腫
- 免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病
- 小児の鉄欠乏性貧血
さらに次のような病気との関連も疑われています。
- 慢性じんましん
- パーキンソン症候群
- アルツハイマー型認知症
- 糖尿病 (注2
ヘリコバクター・ピロリの検査
ヘリコバクター・ピロリの感染診断には、内視鏡(以後胃カメラと表示します)を用いない検査と胃カメラを用いた検査があります。
健診などでは、まず胃カメラを用いない検査をして、結果が陽性に出た場合に胃カメラを用いた検査を追加する方法をとります。
胃カメラを用いない検査
胃カメラの検査を受けられない乳幼児などでも検査できるのがメリットです。
ただし成人の場合は、あくまでも参考として用いるため、結果が陽性になった場合は必ず胃カメラ検査が必要です。
尿素呼気検査
成分の一部に特異な炭素を含んだ尿素を内服すると、ヘリコバクター・ピロリによって二酸化炭素とアンモニアに分解されます。
この二酸化炭素は特異な炭素を含んでおり、呼気から排せつされる特異な炭素の量を測定する方法です。
これによってヘリコバクター・ピロリの存在を間接的に証明します。
ただしこの検査だけでは不確かなため、他の検査と併用で用いられます。
ヘリコバクター・ピロリ抗体測定
血液または唾液中に含まれるヘリコバクター・ピロリの抗体を調べる方法です。
萎縮性胃炎などで胃の中のヘリコバクター・ピロリを見つけにくい場合に用いられます。
またヘリコバクター・ピロリの除菌をする際に、治療の前後で抗体価を測り、半分以下に減少していれば除菌成功と判断されます。
ただしヘリコバクター・ピロリに感染したばかりの場合や、免疫異常があると、感染していても結果は陰性になるため注意が必要です。
便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定
便中に排せつされるヘリコバクター・ピロリを直接検出する方法です。
専用の容器を用いて、採便棒で便の表面をぬぐい取り、容器の根元までねじり込みます。
簡単に検査できるため、乳幼児でも調べられるのがメリットです。 (注2
胃カメラを用いた検査
胃カメラの検査中に胃粘膜を少量採取(胃生検)して、ヘリコバクター・ピロリを検出する方法です。
なお胃カメラの検査にて、胃粘膜の萎縮・びまん性発赤・過形成ポリープ・粘膜腫脹などの所見が得られた場合、ヘリコバクター・ピロリの感染を疑います。
迅速ウレアーゼ試験
ヘリコバクター・ピロリがいるとアンモニアが産生されます。
胃生検で採取した組織をpH指示薬が入った検査試薬内に入れると、アンモニアの効果で色調が変わります。
これによってヘリコバクター・ピロリの存在を間接的に検査する方法です。
胃カメラの検査中にすぐ調べられるのがメリットです。
鏡検法
胃生検で採取した組織をホルマリンで固定して標本を作り、顕微鏡を使ってヘリコバクター・ピロリを検出する方法です。
最初に記載したように、らせん状の細菌が見つかります。
鏡検法だと検査結果を保存できますし、胃粘膜の炎症、萎縮などの変化も調べられます。
培養法
胃生検で採取した組織を特殊な環境に置き、ヘリコバクター・ピロリを生育・増殖させて調べる方法です。
結果が出るまでに4~7日かかります。
ピロリ菌を保存できるため、除菌薬の効き目(感受性)を調べられます。(注2
補助的な検査:血清ペプシノゲン測定
血液検査でペプシノゲンを測定する方法です。
ペプシノゲンⅠとペプシノゲンⅡの2種類があり、胃粘膜に炎症があるとⅠ/Ⅱの比が低下します。
そしてヘリコバクター・ピロリの除菌に成功するとⅠ/Ⅱの比が上昇することが知られています。(注2
ヘリコバクター・ピロリの除菌療法について
ヘリコバクター・ピロリ感染症と診断された場合は、菌を退治する「除菌療法」が勧められます。
日本では以下のような標準的な治療法が決められています。
除菌薬の組み合わせ
酸分泌抑制薬と2種類の抗生物質を組み合わせ、朝・夕食後に7日間服用して治療します。
(一次除菌)
酸分泌抑制薬
以下のうち1種類を選択
- ランソプラゾール(30mg)1Cap(錠)を1日2回
- オメプラゾール(20mg)1錠を1日2回
- ラベプラゾール(10mg)1錠を1日2回
- エソメプラゾール(20mg)1Capを1日2回
- ボノプラザン(20mg)1錠を1日2回
抗生物質
以下の2種類を同時に服用
- アモキシシリン(250mg)3Cap(錠)を1日2回
- クラリスロマイシン(200mg)1錠または2錠を1日2回
培養法で得られたヘリコバクター・ピロリに対する抗生物質の効果(感受性)を調べてから治療することが勧められています。
もしクラリスロマイシンで効果がないことが明らかな場合、この薬を用いず、最初から二次除菌で用いるメトロニダゾールの使用を検討することがあります。
一次除菌で70~90%は治療に成功しますが、残りの10~30%は失敗します。
この場合は以下のような除菌薬の組み合わせに変更して治療をやり直します。(二次除菌)
酸分泌抑制薬
以下のうち1種類を選択(内容は一次除菌と同じです)
- ランソプラゾール(30mg)1Cap(錠)を1日2回
- オメプラゾール(20mg)1錠を1日2回
- ラベプラゾール(10mg)1錠を1日2回
- エソメプラゾール(20mg)1Capを1日2回
- ボノプラザン(20mg)1錠を1日2回
抗生物質
以下の2種類を同時に服用
- アモキシシリン(250mg)3Cap(錠)を1日2回
- メトロニダゾール(250mg)1錠を1日2回
二次除菌まで行えば90%は治療に成功します。
しかし残り10%はどうしてもヘリコバクター・ピロリが残ってしまいます。
さらに三次除菌を行う場合もありますが、研究段階であり、保険適応もありません。(注2
除菌薬の副作用
よく見られる副作用と出現頻度を示します。
- 下痢・軟便:10~20%
- 味覚異常・舌炎・口内炎:5~15%
- 皮疹:2~5%
- その他として、おなら・頭痛・めまい・かゆみなどがみられます。(注2
除菌療法中の注意点
- 喫煙は除菌率を低下させるため禁煙が必要です。
- メトロニダゾールを服用中に飲酒すると腹痛・嘔吐がみられることがあるため禁酒が必要です。
- 除菌に成功しても、年に0~2%程度の確率でヘリコバクター・ピロリが再度陽性になることがあります。
- 除菌に成功しても胃がんが発症することがあります。
まとめ
ヘリコバクター・ピロリとは胃の中に存在するらせん状の細菌です。
唾液を介して口から感染するのではないかと考えられています。
胃十二指腸潰瘍や胃がんなどの原因となるため注意が必要です。
ヘリコバクター・ピロリの感染診断には、便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定などで検査した後、疑いがあれば胃カメラの検査を行います。
ヘリコバクター・ピロリ感染症と診断された場合、菌を退治する「除菌療法」を行えば、90%くらいの成功率で治療が可能です。